電気代がもったいなくて
三連休のまっただ中
ソファに積み重なった衣服を払いのけ、
三角座りをしながキーボードを叩く私
電気代がもったいなくて
部屋の電気はつけずに、
日が落ちるたびに光を失っていく8畳のワンルーム
着信履歴には不動産屋の電話番号
一度も電話を取っていない
ひとりでも内見も行けずに
私はどこにも行けずに
三角座りをして待っている
猛暑日と私
太陽が大地を焼いている
芝生の上で読書でもしようと思って
六本木ミッドタウンに向かった
それはおしゃれで時間の有り余ったセレブにしかできない行為だから
薄手のカーディガンを羽織っていたのだけれど
ミッドタウンガーデンに着いた頃にはとうに汗だくで
読書どころではなかった
それでも私はセレブになりたくって
芝生の上に腰を下ろし、Kindleを優雅に取り出した
普通の紙の本なら眩しくってとても読めやしない
だけど、私のKindleならそれができた
Kindleの画面は太陽の中でも鮮明に黒色の活字を映し出していた
だけれど、やはり暑くってとても読めたものではなかった
5分もしないうちに顔を上げると
芝生の上でひとりなのは私だけだと気づいた
少し恥ずかしくなって
奥にある檜町公園に向かった
遊具で遊びながら読書をする様は
きっと素敵だろうと思えた
だけどそこには何人もの子供たちがいた
それは本物のセレブの子供たちで
彼らはみな英語で白人の子供と喋り
日本語で母親と喋っていた
私は遊具に触れることすら叶わなかった
不平等だと思った
私だって港区民なのに
高い住民税を払っているのに
悔しくなってミッドタウンの建物の中に入ったけれど
どれもこれもが高くって
私に買えそうな品物はひとつもなかった
数人で固まって五月蝿く喋る中国人の買い物客は
大量の買い物袋をもって建物内を闊歩していた
私にはKindleしかなかった
とても哀しくなって
深い大江戸線の中に潜っていった
何組もの笑顔のカップルたちと
途中のエスカレータですれ違ったが
私はあいかわらずひとりだった
四次元トリップ
昨日の夜、お薬をキメてセックスをした
これまで使っていたタイプとは違う
サイケデリックな初めての経験
抱かれたまま目をつむると
今まで理解することすらできなかった
四次元の世界が
目の前に広がっていた
私は辿り着くことができたのだった
そこでは全てのものが溶け合って
裏も表もなく
上も下もなく
流れて
循環して
回転し続けていた
重力を無視して敷かれた虹色の道
空に浮かぶ複雑な構造のお城
果てのない草原と大きすぎる太陽と
どこまでも背の高いキリンみたいな動物
近付きすぎると遠ざかり
また別の世界が広がり
それが幾度となく繰り返された
卑猥な言葉を叫び続けて
穴を穿たれた
ふと目を開けると
2時間と少ししか経っていなかった
私は果てない宇宙を永遠をかけて旅してきたのに!
私がこれまで馬鹿にしてきた狂人は
一転して真実の探求者であることがわかった
かりそめの世界を生きることは
全くもって阿呆らしい
きちがいまんこと私
さっき、電車できちがいまんこを見た
丸ノ内線は空いていて、ちょうど四ッ谷から新宿にかけて乗っていた
「生きることはなんて、素晴らしいの。あなたもそう思うでしょ。思うはずよ、なんなら手塚治虫の漫画でも読んでみなさいよ。そしたら嫌でもわかるわ。生きていることは素晴らしい。でもね、駄目なのよ。そんなことわかっているけれど、だけどね、そう、例えるならものごとを見ている角度が違うの。みんなが見ている角度から見ることができたなら、すべては万事上手くいくのだけれど、わたしはどうしてもいま立っている位置から、見通して解決してみたいの。頑固なまでにティッシュを箱の底から取り出してみたいのよ」
うろ覚えだけどそんなことを言っていた
村上春樹の小説に出てきそうな喋り方だったので
ちょっと気に入った
枯れた声と大げさなジェスチャーとともに
車内を行ったり来たりする様は
どこか私に似ていた